筆屋『香雪軒』が素晴らしかった話
京都に来たばかりの時は毎日、その日に巡った歴史的スポットをまとめていこうと思っていたのですが、その膨大な情報量にあっさりと負けました。
毎日まとめてたら睡眠時間がなくなっちゃうんです……。
というわけですっかりご無沙汰でしたが、京都滞在残り6日にして素敵な出来事があったので書きます。
突然ですが、西芳寺というお寺をご存知でしょうか?
世界遺産(世界文化遺産) 西芳寺(苔寺)/京都府ホームページ
世界遺産に登録されている古刹で、聖徳太子の別荘だったところを、奈良時代の僧、行基がお寺にしたと伝えられています。一時荒廃しますが、夢窓国師が禅寺として復興しました。(夢窓国師は、同じく世界遺産の天龍寺の、素晴らしい庭園を作庭した人です。天龍寺も本当に素晴らしいんですよ……)
西芳寺といえば苔!!苔寺って呼ばれるくらいですからね。
(バスの行き先も、西芳寺行きではなく苔寺行き)
このお寺の苔は写真で見ても美しいんです。素人目にもわかります。
どれくらい美しいかというと、西芳寺の苔はなぜ美しいのかを苔業者が分析し始めるくらいです↓
世界遺産西芳寺、メッチャきになる!行きたい!
ということで拝観についていろいろしらべてみたところ
西芳寺(苔寺)|観光情報検索|京都“府”観光ガイド ~京都府観光連盟公式サイト~
往復ハガキで1週間前までに申し込む必要が!
しかも庭園を見ることがメインではなく!宗教行事がメイン!!
3000円!!!!
普通のお寺はふらっと行って拝観受付で300-600円くらい払えばOKなのでこれは驚きです。他の世界遺産寺院でもここまではなかなかないぞ。
同時にめっちゃ期待が高まる。
ここに訪れるために、1週間前までに往復ハガキを出し、3000円を払い、写経(通常40分くらいかかる)をしようと思う人しか来ないわけです。絶対混んでないし、拝観しに来る人も洗練されているはずだ!!!説法してくださったりするのだろうか!まさかの僧とマンツーマン説法!?
というわけでハガキ出しました。今朝返ってきました。
おおお!これが拝観券になるわけです。
っていうか明日じゃないか!
ん?
写経用の細筆。
ない。
いつも写経をする時は筆ペンで済ませてしまっているので、細筆など持っていない。
書道経験者でもないので、細筆など持っていない。
今日の行き先(比叡山延暦寺)へとすでに出発した後。参拝は明日だから Amazonにも頼れない。
うーんどうしようと思いつつ、近くに筆屋さんがないか検索しました。
近くになくても、どっかにはあるだろ!京都だし!!!
メッチャ近くにあった
というわけで寄りました。香雪軒。
軒先に大きな筆がぶら下がっているのが目印です。
6畳ほどの店内にたくさんの筆が並べられていて、素敵な空間。
ご夫婦が「いらっしゃいませ」と迎えてくれました。
入店するとすぐ「どの筆も試し書きできますからね」と、奥様が優しく仰ってくださいました。そうかー、筆って試し書きとかできるんだなあ。
「写経用の筆を探してるんですけれど、筆のこと全然わからなくて……」
というと、筆を3本出してくれました。写経用の小、中、あとは普通の細筆。
「写経用じゃないのは、普通に手紙を書く時とかにも使えますよ〜」と奥さん。
えええ、普通に手紙を書くというシチュエーションがなかなかないし、あったとしても筆では書かないよ……と思いつつ、筆で手紙を書いてみたくなったので普通の細筆を選びました。試し書きもいい感じだったし。
018蓮月を購入しました。
筆ってこうやって並べるととってもスタイリッシュ。かっこいい。
包装のために奥様が店の奥に入ると、旦那様が話しかけてくれました。
「あそこにかざってあるのはねえ、谷崎潤一郎の手紙なんですよ」
!?
「あと、あっちに飾ってある『香雪軒』は武者小路実篤が書いたんです」
!?!?!?!?!
なんですと!!!!!
ここからその写真がみられます→ 香雪軒のあゆみ
どうやら谷崎の手紙のほうも直筆らしい。ええええええ
近くにあったからという理由で入った筆屋さんでこんな素晴らしいものに出会うとは!京都やっぱりやばい!!
聞けば、谷崎はここ香雪軒の筆を買いによく訪れたらしい。
「彼は原稿を毛筆で書いていたからね」と旦那様。
直筆に感動する僕をみて嬉しかったのか、そこからいろんな話をしてくださいました。
僕「ちょっと急に直筆とか、何も知らないで寄ったからびっくりしちゃいました。こんなに素晴らしいお店だったとは……」
旦那様「若い人に谷崎とか言ってもわからん人が多いからなあ」
僕「いやほんと、武者小路実篤とかもっとわからない人多いですよね」
旦那様「そうなんだよ〜〜〜〜」
日本文学を専攻している話や、古典文学の聖地&鳥居をめぐるために京都に2ヶ月弱滞在している話をするととても喜んでくださって、周辺の歴史的なものについてたくさん教えてくれました。
「このあたりは、ここでこの句を読んだとか、誰かがここで死んだとか、そういうエピソードの宝庫なんですよ」
「(死んだ!?) へえ〜そうなんですね!鷗外の『高瀬舟』の高瀬川はここだなあくらいしかわかりませんでした」
時には新聞の切り抜きを取り出してきて教えてくれるなど、本当に親切に周辺のことについて教えてくださいました。
「すぐ近くに、角倉了以のお庭があるんですよ。料亭の中だけど、言えばお庭だけ見せてもらうこともできるんじゃなかったかしら。高瀬川の源流です。」
角倉了以〜〜〜!日本史の教科書で知ってる名前〜〜〜!
それにしても、庭園好きとしては聞き捨てならない情報だ。
他にもたくさん情報を教えてくれた二人にお礼を言って、早速その庭園に向かいます。
料亭の中と言っていたし、無料で見せてくれるくらいなら小さい庭園なのかなーと思いながら向かうと
えっ、とても広い。
水が滝のように流れている場所があったり、茶室があったり、それはそれは素晴らしい庭園でした。
外から見たら料亭なので、庭園のことを知らなければ、なかなか寄ろうとは思わない場所です。
一応店先に庭園を見るだけでも入れる旨は書いてありましたが、普通は気づかないだろうなあ。メニューかと思った。
本当に素敵な場所を教えていただきました。
ちなみに旦那様のお話の中にあった「このあたりは、ここでこの句を読んだとか、誰かがここで死んだとか、そういうエピソードの宝庫なんですよ」についてですが
佐久間象山が死んだ pic.twitter.com/P6mo9T9BCG
— 狡猾な狐 (@wreck1214) 2017年4月4日
本当に周辺で死んでた。
しかも佐久間象山!!!有名人じゃないですか!!!
香雪軒のお二人とたくさん話をして、ちょっと調べただけでは出会えないようなスポットに出会うことができました。
谷崎潤一郎と武者小路実篤の直筆に出会えたのは本当に感動した……。
筆を買っただけなのに、筆以上のものをいただきました。最高だ。
もう全てに感謝したい。
拝観のためには写経をする必要がある西芳寺に、写経には細筆の持参が必須な西芳寺に、このタイミングで返信ハガキを送ってきた西芳寺に、感謝!
明日の西芳寺拝観がますます楽しみになりました。香雪軒の筆を携えてゆきます。
思わぬ出会いに感激した僕は、幸せな気分のまま本来の目的地であった比叡山延暦寺へとむかいましたとさ。めでたしめでたし。